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仙台高等裁判所 昭和37年(ラ)95号 決定 1963年10月30日

抗告人 佐野常吉(仮名)

相手方 大川カツコ(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、別紙記載のとおりである。

抗告理由第一点について。

原審における申立人の福島家庭裁判所白河支部家事審判官あて昭和三六年二月一日付回答と題する書面および添付登記簿抄本六通によると、相手方は、昭和一六年三月一〇日被相続人佐野スミから抗告人主張の福島県石川郡浅川町大字浅川字根宿○番、田五畝二五歩外畦畔一畝歩、その外四筆の農地および同所字城山○○番の○○○宅地六三坪五合の譲渡を受けたことを認めることができるが、右譲渡については、相手方が婚姻のためまたは生計の資本として贈与を受けたものと認めるに足りる証拠はなく、かえつて、右書面および原審における昭和三七年四月二六日の相手方審問の結果を総合すると、右不動産は、被相続人佐野スミが老後の扶養を相手方から受けるための保障として相手方に譲渡したものであることを認めることができるから、抗告人の抗告理由第一点の主張は採用することができない。

抗告理由第二点について。

原審における家庭裁判所調査官の昭和三七年三月一五日付調査報告書および同年四月二六日の相手方審問の結果を総合すると、相手方は、郡山地方貯金局に勤務し、二女恵子(当時高校一年生)、長男伸治(同中学一年生)と同居生活をしていることを認めることができるが、原審における鑑定人安藤昌宜の鑑定書添付の字背戸谷地○番、同所○番の土地台帳の写、原審証人片山あや、村川キクの各証言および原審における昭和三七年四月二六日、同年七月六日の相手方、同年八月二三日の抗告人各審問の結果を総合すると、相手方が本件遺産分割の審判によつて分割を受けた不動産は、被相続人佐野次郎が生前において、これを相手方に与えるつもりでいたものであるところ、抗告人においても、これを(ただし、原審判添付目録の番号一八、一九の各畑については、抗告人の耕作部分を除く。)相手方に分割することに応じてもよい意向になつていること、右畑二筆は、もと被相続人佐野次郎の死後、相手方において耕作をしていたが、間もなく抗告人においてその一部を耕作するようになつたことを認めることができ、相手方においては、農耕の経験もあり、相手方の生計補助のためにも、右二筆の畑をもつて相手方に耕作させることは相当であると認められるから、抗告人の抗告理由第二点の主張は採用することができない。

抗告理由第三点について。

抗告人主張の福島県石川郡浅川町大字里白石字小野久保○○○番の一外四筆の土地は、遺産分割までは相続人たる抗告人および相手方の共有と解されるのみならず、右合計五筆の土地上の毛上については、その植林の時期も不明であり、また右毛上はすべて抗告人が右土地の使用について相手方の承諾を得て植林し、抗告人の単独所有であると認めるに足りる証拠はないから(かえつて原審における相手方各審問の結果および尋問の結果を総合すると、抗告人が右土地に植林をしたとしても相手方に無断でしたものと認めることができる。)、右土地上の毛上をもつて、にわかに抗告人の単独所有に属するものと断定することができず、他に特段の事情がない限り、抗告人および相手方の共有に属するものと認めるのを相当とし、次に、抗告人が支払つたと主張する租税および被相続人佐野次郎、スミ夫婦の葬儀費用は、本来遺産そのものに属するものとはいえないのみならず(仮に、抗告人が被相続人の死亡前に負担した税金を支払つたとすれば、相続により当然相続人らの分割債務となる。)また、遺産に関する費用に当るとしても本件のような普通の相続の場合、必ずしも遺産から支払わなければならない性質のものでなく、相続人において負担し、支払つてもよいものであり、共同相続人において負担する場合は、おのずから相続人の合意(葬儀費用については、特に慣習によることもあるであろう。)によることになるわけであつて、本件においては、相続人が負担したというのであるから、抗告人の抗告理由第三点の主張は採用しない。

抗告理由第四点について。

原審における家庭裁判所調査官の昭和三七年三月一五日付調査報告書および当審における抗告人提出の福島県石川郡浅川町長の昭和三七年一一月一五日付証明書によると、抗告人の昭和三七年度課税総所得金額が金三五万四、七一八円であることおよび昭和三七年三月当時抗告人の家族は、抗告人夫婦外七名であることを認めることができるが、右証明書によつて抗告人の年間収入が右額以上に出ないとは一概に断定することができず、本件遺産分割によつて債務を負担した場合は、即時に弁済期が到来するものであり、抗告人主張の事情を考慮に入れても、本件遺産分割によつて負担する抗告人の債務額、その支払期間および本件遺産分割によつて当事者双方の受ける利益、不利益その他本件に表われた一切の事情を比較考察するときは、原審判の定めた抗告人の右債務の分割弁済方法をもつて相当でないとすることもできないから、抗告人の抗告理由第四点の主張もまた採用することができない。

なお、原審における昭和三五年四月一五日の相手方本人尋問の結果、昭和三七年七月六日の相手方、同年八月二三日の木村松吉各審問の結果、家庭裁判所調査官の同年一〇月一八日付調査報告書および本件記録によると、相手方は、昭和三四年九月一八日に到つて抗告人が本件遺産について、相手方に無断で、単独で保存登記または、相続による所有権移転登記を経由していることを発見し、同日初めて抗告人において相手方の本件遺産に対する相続権を侵害していることを知り、その後間もなく同年一〇月一五日本件遺産分割審判の申立をしていることおよび抗告人は、相手方にも本来相続権のあることを認めて争わないことが認められるから、本件遺産について抗告人に右登記が経由されていても、本件遺産分割審判をするについて、支障となるものではない。

よつて、原審判は、相当であつて、本件抗告は、理由がないから、これを棄却すべく、民事訴訟法第四一四条、第三八四条、第八九条、第九五条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 飯沢源助 裁判官 野村喜芳)

別紙

抗告の理由

一、原決定の遺産分割の審判は遺産に付き民法第九〇三条による事実の判断に欠けている

申立人大川カツコが被相続人佐野次郎から生前贈与を受けた福島県石川郡浅川町大字浅川町字根宿○番

一、田五畝二五歩

外四筆の農地

及び福島県石川郡浅川町大字浅川町字城山○○番○○○

一、宅地六五坪五合

の不動産に関し分割すべき遺産中に加算していない

二、申立人は非農家(申立人は福島県、郡山貯金支局に勤めて居り其の家族は福島県立○○高等学校に通学している二女と同○○町立○○中学校に通学している長男の計三名)であるところ決定主文第一に記載しあるが如く農地の耕作権を認めたことは納得出来ないのである

蓋し申立人は現在他人に貸与し自ら耕作していない農地が存するからである

三、遺産中の山林

福島県石川郡浅川町大字里白石字小野久保○○○番の一

外四筆の毛上は全部抗告人が植林したものであつて遺産の価格に算入すべきものではないと思料するし抗告人が遺産に付き支払つた租税の金円(申立人は支払つていない)並に被相続人佐野次郎夫妻の葬儀費用を抗告人が全部支払つているがこの点に付き何等触れていないのである

四、更に決定の主文第四に付き

相手方は申立人に対し金九一万四、二六六円を昭和三七年以降同四一年まで毎年一二月末日迄金一五万〇、〇〇〇円宛同四三年一二月末日迄金一六万四、二六八円を支払うべしとあるも専業農家である抗告人は別紙添付の所得額証明願と題する書面記載の如く一ヵ年間の総計所得額は金三五万四、七一八円で抗告人は家族多数の為め漸く一家の生活費を支弁するに足る金額で其の所有に係る不動産を売却しない限りは到底申立人に対し一年間に金一五万円を支払う経済能力がないのでこの点に付て裁判所の特別の御考慮を御願いしたいのである

要するに原決定は以上の点に付き十分の考慮を払われていない為めこれを取消すことが相当と思料し抗告に及ぶ次第である

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